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山本美絵『オナモミ』

 

オナモミ

オナモミ

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15日、syrup16gのライブを観た。その時、友人が「シロップの歌を初めて聴いた時、鬱々とした世界に自分も引き摺り込まれそうになって怖くなった。だから、あまり聴いてこなかった」と話していた。シロップの歌には身も蓋もないほど、“どうしようもなさ”を描写しているものがある。

その友人の話で思い出したのが、山本美絵だった。山本美絵も1st『オナモミ』で、そういった“どうしようもなさ”を歌にしている。

「外は雨だよ」では、サボテンを枯らしてしまった自分と、雨が降っている様子を対比して描いている。自分は実家を出たものの、悶々と暮らしている。いっぽう鉢の外から出ることのできないサボテンは、水分が足りなくて枯れてしまった。「外は雨だよ」とサビ終わりに、つぶやくように歌う。

また「ある晴れた日に」の主人公は無職で、晴れの日ですら家から一歩も出ない。外の土は踏まないが、鉢植えの土に触れている。そして、誰とも会うことはないが、“外からの客”であるコガネムシがやってきたから、迎え入れては鉢植えの土に埋めて憂さ晴らしをする。

山本美絵の曲の主人公は、社会にうまく馴染まない人だ。『オナモミ』は10代をテーマにした作品だといい、学校生活の苦しさについても歌われているが、何より労働についての歌が多い。無職の自分やうまく働けない自分、働くことに怯えている自分。これほどまでに労働をテーマにした歌が揃うのも珍しい。ただあくまで労働という社会の場についてのもので、プロテストソングではない。

また山本美絵は「○○ゴッコ。」「猫」で社会の欺瞞を暴こうとする。“見えてしまう人”だったんだろうと思う。

歌の内容もさることながら、『オナモミ』はサウンド面でも特異な作品だ。当時流行っていたようなエモーショナルなロックではなく、電子的な音で構成されている。interludeではアンビエントのような趣もある。

(余談だが、サウンド面を手がけたtakeimai氏は、アニメ『こどものおもちゃ』のエンディング曲「パニック!」が有名なStill Small VoiceのTAKE IMAI氏と同一人物だと踏んでいる。しかし、情報が出てこない)

また山本美絵はものすごく歌が上手いかというと、そうではないが、強烈に個性の強い歌い方をする。どんなシンガーの影響を受けたのかが想像できない。実家はジャズバーだったと耳にしているが、ジャズの影響は感じられない。「トモダチ」や「7:15」を聴いていると「戸川純が好きだったのかな」とも思うが、そういう解釈の仕方も単純なのかなと憚られてしまう。

当時、情念を込めたような女性シンガーが流行ったが、いっぽうクラブサウンドを意識したDIVAブームもあった。山本美絵オナモミ』はその間にあるような作品と考えることもできる。

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